好奇心スイッチON!

ITエンジニアのための「なぜ?」を力に コードを育てる好奇心リファクタリング脳科学アプローチ

Tags: リファクタリング, コード品質, 脳科学, 好奇心, 学習

リファクタリングはなぜ億劫になりがちなのか

ITエンジニアの仕事において、既存コードのリファクタリングは品質維持や生産性向上に不可欠な作業です。しかし、「動いているコードを触るのが怖い」「時間がかかる割に新しい機能開発のような明確な成果が見えにくい」「そもそも読みにくいコードを読むのが億劫」と感じる方も少なくないかもしれません。技術的負債の解消は重要だと理解しつつも、日々の業務に追われる中で後回しになりがちな現実があるかと思います。

読みにくいコードや複雑な設計は、私たちの認知に大きな負荷をかけます。どこから手を付ければ良いか分からず、作業を始める前から心理的なハードルが高くなってしまうこともあります。この課題に対し、単なる根性論や精神論ではなく、脳の仕組みに基づいたアプローチを取り入れることで、リファクタリングへの向き合い方を変え、より効率的かつ前向きに取り組めるようになる可能性があります。その鍵となるのが、「なぜ?」という好奇心を活用することです。

この記事では、リファクタリングにおける「なぜ?」の curiosity が、どのように脳科学的に私たちの行動や学習を促進するのかを解説し、忙しい日常の中でもすぐに試せる具体的な実践テクニックをご紹介します。

コードの「なぜ?」が脳を活性化する仕組み

なぜ、コードに抱く素朴な「なぜ?」という疑問が、リファクタリングを促進する力になるのでしょうか。これには脳内の報酬システム、特にドーパミンという神経伝達物質の働きが深く関わっています。

私たちの脳は、新しい情報やパターンを認識したり、理解が進んだりする過程でドーパミンを放出することが知られています。ドーパミンは、快感や報酬、そして学習や意欲に関わる物質です。つまり、「わからないことがわかるようになる」「謎が解ける」といった経験は、脳にとって報酬となり、再びその経験を求めようとする動機付けとなります。

コードを読んでいるときに感じる「なぜこの書き方なのだろう?」「なぜここでこの設計パターンが使われているのだろう?」といった疑問は、脳にとっての「情報の空白」や「予測とのズレ」として認識されることがあります。この「空白」を埋めようとする探索行動や、「ズレ」を解消しようとする理解のプロセスこそが、好奇心の根源の一つと考えられています。

リファクタリングの過程で、読みにくいコードの構造や意図を探求し、「なるほど、こういう理由だったのか」と理解が進むたびに、脳内でドーパミンが放出され、ポジティブな感情や「もっと知りたい」という意欲が生まれる可能性があります。また、コードの「なぜ?」を突き詰め、より良い構造へと改善することで、コードが「育つ」という感覚は、達成感という別の報酬系も刺激します。これにより、リファクタリングが単なる面倒な作業ではなく、知的探求と成長のプロセスへと変容していく可能性があるのです。

さらに、好奇心を持ってコードを深く理解しようとすることは、コードの認知負荷を軽減することにもつながります。構造や依存関係を明確に把握することで、脳が一度に処理しなければならない情報量が減り、よりスムーズにコードを読み書きできるようになります。これは、新しい技術を学ぶ際に、まず「なぜこれが動くのか?」という仕組みに興味を持つことで、理解が深まり習得が早まることと似ています。

実践:「なぜ?」を力に変えるリファクタリングテクニック

それでは、この「なぜ?」という好奇心を、実際のリファクタリング作業にどのように活用すれば良いのでしょうか。多忙なITエンジニアの皆様が、日常の業務やちょっとした隙間時間にも取り入れられる具体的なステップをご紹介します。

ステップ1:「コードの匂い」を「知的好奇心のサイン」として捉える

「コードの匂い」(Code Smells)とは、コードに潜在的な問題があることを示唆する兆候のことです。例えば、長い関数、重複したコード、理解しにくい変数名などがあります。これらを単なる「悪いコード」とネガティブに捉えるのではなく、「ここには何か興味深い『なぜ?』が隠されているかもしれない」という知的好奇心のサインとして捉え直してみましょう。

実践のポイント: * コードレビューや障害調査の際に、「ん?これはどうしてだろう?」と感じた部分に意識的に注目します。 * 付箋やコメント、タスク管理ツールなどに、具体的な「なぜ?」の疑問をメモしておきます。「この関数がこんなに長いのはなぜか?」「このクラスにAとBの両方の役割があるのはなぜか?」のように具体的に記述します。

ステップ2:小さな「なぜ?」から探求を始める

コード全体を一度に理解しようとすると、認知負荷が高すぎて挫折しやすくなります。重要なのは、具体的な、そして比較的小さな「なぜ?」から探求を始めることです。まるで宝探しのように、一つの疑問を解くことが次の疑問につながることを楽しみます。

実践のポイント(短時間テクニック): * 休憩時間(5-10分): 先ほどメモした「なぜ?」の中から、最も気になったもの、あるいは最も小さそうなものを一つ選びます。その疑問に関わるコードの一部だけを読み、その理由や背景を軽く推測してみます。関連する他のファイルやドキュメントを少しだけ覗いてみるのも良いでしょう。 * 通勤時間(電車の中など): コードは見られなくても、メモした「なぜ?」について、過去の経験や一般的な設計パターンを思い出しながら、頭の中でその可能性を考えてみます。「あの時の設計判断と関係があるかもしれない」「こういう状況なら、あのパターンが適用できるかも」など。

ステップ3:探求の成果を記録し、共有する

「なぜ?」を探求して得られた理解や発見は、自分自身の知識となりますが、チームにとっての貴重な情報となることも多いです。発見を簡単なメモとして残したり、チーム内で共有したりすることで、さらに好奇心や学習意欲が刺激される可能性があります。

実践のポイント: * コードのコメントとして、そのコードがそうなっている理由や、リファクタリングの際の注意点などを簡単に記述します。「TODO: なぜこの処理が分離されていないのか?理由を追記する」のように、自分や他の人が後で探求を続けられるようにするのも有効です。 * 日々の朝会や振り返りの時間で、自分が「なぜ?」を追究して発見した小さな知見を共有します。他のメンバーからの反応や質問が、新たな好奇心を生むことがあります。

ステップ4:発見に基づき、改善の「なぜ?」へとつなげる

最初の「なぜ?」の探求を通じてコードの背景や意図が理解できたら、次は「どうすればもっと良くなるのだろう?」という改善への好奇心へとつなげます。「なぜこのコードは読みにくいのか?」が分かれば、「では、どうすれば読みやすくなるのか?」という問いが自然と生まれます。

実践のポイント: * 探求で見つかった理由や背景を踏まえ、「もし〇〇だったら、もっとシンプルになるのではないか?」「この部分を独立させると、再利用しやすくなるのではないか?」といった具体的な改善案を検討します。 * 小さな改善から試みます。例えば、変数名の変更や短い関数の抽出など、影響範囲が小さくリスクの低いリファクタリングから始めます。成功体験が、次の「なぜ?」や改善への意欲を高めます。

効果と応用:コードが「育つ」ポジティブなサイクルへ

「なぜ?」の好奇心を持ってリファクタリングに取り組むことで、以下のような効果が期待できます。

この「なぜ?」を起点としたアプローチは、リファクタリングだけでなく、複雑なシステム全体のアーキテクチャを理解する際や、未知のライブラリやフレームワークの内部挙動を探る際、あるいは障害発生時の原因究明など、ITエンジニアの様々な業務に応用することが可能です。常に心の中に「なぜ?」という問いを置き、それを探求する機会を見つけることで、脳は活性化し、学習と成長のサイクルが加速していくと考えられます。

まとめ

既存コードのリファクタリングは、時に骨の折れる作業と感じられるかもしれません。しかし、そこに「なぜ?」という好奇心という視点を持ち込むことで、作業は知的な探求へと変わり、脳内の報酬システムを刺激し、ポジティブなモチベーションを維持しやすくなる可能性があります。

コードの「匂い」を「知的好奇心のサイン」として捉え、小さな「なぜ?」から探求を始め、得られた発見を活かして改善へとつなげる。このサイクルを意識的に繰り返すことで、単にコードを整理するだけでなく、コード自体が「育つ」ような感覚を得ながら、自身の技術力も向上させていくことができるでしょう。

ぜひ今日から、コードの中に眠る小さな「なぜ?」に耳を傾け、それを解き明かすプロセスを楽しんでみてください。その一歩が、より良いコードと、より充実したエンジニアリングライフへとつながる可能性があります。